言几又・迈科中心旗舰店

原兆英賞
タイトル言几又・迈科中心旗舰店
所属会社株式会社アイケイジー
応募者名池貝知子
所在地西安市(中国)

審査講評(原 兆英)
 初めて審査員の大役を仰せ付かった。その責任は重いが、自分なりの視点で評価させていただいた。候補作はそれぞれ異なる環境にあり、使用目的はもちろん、利用者や地域の文化的な差異もあるわけだ。同一の条件下で競うスポーツのように優劣は付けにくいというのが本心だった。
 受賞作品は中国西安市の複合施設内にある空間。「人と本の出会いが生まれる場」を目指したという。ただコンセプト自体に真新しさはない。米国の書店バーンズ&ノーブルが本好きの人々に体験の場を提供する図書館型書店としたことにも重なる。しかし、10mの天井高と数万冊を優に超えるであろう書籍ディスプレイは圧倒的だ。また、静寂に満ちた落ち着いた大空間が醸す「智」へアプローチする姿が秀逸だ。複合施設の集客機能、憩いの機能を調和させた図書館然とした設えが、集う人々を穏やかに包み込むデザイン性を評価した。
 デザインは五感を通じて人間に影響を与える力がある。デジタル時代の現在、書籍の売上は低下する一途だが、様々な本と出会うリアル体験は書店や図書館でしか味わえない。本作品の醍醐味はこの一点にあるだろう。空間をどのように味付けして人々に迫るのか。空間デザインに携わる者には悩ましくも楽しい作業だ。
 かの国には焚書という暦年の文化的破壊があった。そうした環境で図書館をモチーフにしたデザインが受け入れられたことに隔世の感を覚える。変わりゆく社会の雰囲気を読み取った作り手のクリエイティビティ故のものだろう。こうした空間が、さらなる自由と開かれた国を目指す人々にも評価されることを願っている。

応募パネル